2010年10月7日木曜日

出版で儲けてくれよ

出版における東京と田舎の違い、ひとことで言ってしまえば伝統だろう。 江戸時代、小倉や福岡の文化人は出版となると江戸や大坂に頼んだ。田舎に版元が無いわけではない。それでも彼らは中央を目指した。 それは印刷製本といった技術もさることながら、それ以上に出版に対する魂胆の違いが大きいと思う。 それは稼ぐという意識のあるなしではないだろうか。 出版が地方から発信されるようになってからまだ日が浅い。 たぶん「本」というものが文化の担い手という「認識」、ある意味「勘違い」が広がってからだと思う。 この勘違いのため、地方の出版社はいい情報、市民にとって必要な情報があればそれを広めようと努力するし、そうしたいと願う。 そして本を出す。読者はきっと理解してくれると信じる。 それで情報が広がればこんな楽なことはない。 東京の出版人はこの業界で儲けてやろうと企んで会社を興す。どんな業界であれ当たり前のことである。 きれいごとを言うのは易い。しかし心の底では売れてナンボなのである。 紙媒体というのは手に取ってもらって初めてそこに込められている情報が伝わる。 手に取ってもらうためにはそれなりの「工夫」が必要であろう。 売るための工夫なくして情報は伝わらない。つまり儲ける工夫があって初めて情報は伝わるのだ。 星加輝光の「小林秀雄ノオト」は名著である。 東京の大手版元がこれを出版しようとした。 ところがある作家がこれに校正で手を入れたため、星加は激怒し原稿を引き上げた。 手を入れた作家というのは江藤淳である。版元が本気で「売ろう」と考えていたことはこれで知れる。 結局は後年自費出版という形で世に出たが、売れる訳がない。たぶんほとんどの人には知られていない。 絶版になっていい本だったと言われ、また著者が亡くなって有名になる。 工夫のないものが売れないのは出版に限ったことではない。しかしそれでも構わないという人が多いのがこの業界の特色なのかもしれない。

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