2012年8月2日木曜日

ブックレット



 見ようによってはゴミの山である。しかしゴミの山から一粒の宝石を見つけることも読書人の楽しみのひとつではないだろうか。

日本人はカタカナ語に弱い。いつの頃からか小冊子のことをブックレットと呼ぶようになった。
学芸書を出している出版社なら広報用の小冊子を出しているところが多い。岩波書店の「図書」、筑摩書房の「ちくま」などがそれである。
広報誌なのに定価がある。本屋では華客(おとくいさま)にはタダで渡す。定価のある物がタダでもらえると客は嬉しい。
狙いはそこだろう。
売れる必要のない雑誌だからなのか制約が感じられない。制約があるとすればページ数だろうか。節約のために目次を表紙にしているものもある。目次も装丁の一部なのだ。
どの小冊子も文学・芸術・産業など内容の幅は広く多彩で、随筆もあれば対談もある。もちろん書評然りであり執筆人も豊富である。
中には難しい話題もあるが、みやび出版の「myb」は、肩肘張らずに読める。小冊子ではないが、福岡には「はかた版元新聞」というチラシがあり、地方出版界の活動が手に取るように分かる。
はかた版元新聞
広報誌とはいえ版元にとっては新しい執筆者の筆力を試す場であるのかもしれない。また世間並の話題を探る情報収集の場であるのかもしれない。そういう意味では実験的でもあり、読者にとっては魅力的な本との出会いの場になり得るだろう。講談社の「本」は「読書人の雑誌」(うた)っている。
また世上の話題から生活にかかわりの深い問題まで、好奇心をそそる内容は総合雑誌以上に面白い。当世の時流を探るには最適な資料の一つであり、過去の話題を読み解く絶好の資料にもなり得る。
こういう冊子を眺めていると、出版社で働くということがどういうことか分かる気がする。編集者は編集という技術だけではなく、凄まじく幅広い人脈と見識眼が必要なのであろう。一流の営業マン以上に営業力がなければ務まらない仕事に違いない。